2015年09月24日

『雀(すずめ)百(ひゃく)まで踊(おど)り忘れず』








244.【す】 『雀(すずめ)百(ひゃく)まで踊(おど)り忘れず』 (2004.08.09)
『雀百まで踊り忘れず』
雀は死ぬまで飛び跳ねる癖が抜けないように、幼い時に身に付いた習慣(特に道楽の類)は、年を取っても直らないということ。
類:●三つ子の魂百まで●習い性となる●The Child is (the) father of the Man.(子供は大人の父親である) --William Wordsworth (1770-1850): My Heart Leaps Up<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典>
参考:関連があるかどうかは分からないが、「雀の踊り」は、『雀報恩事(「宇治拾遺物語」に収録)』にはなく、後の『舌切り雀(「御伽草子」に収録)』以降に出てくる。
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その5日後に、友助とお十三(とみ)の祝言(しゅうげん)が執(と)り行なわれた。
事前に、因幡屋卯右衛門(いなばやうえもん)が、腹踊りをする八兵衛の顔を見にきていた。

>卯:私は腹踊りというのに目がなくてね。楽しくやってくださいよ。
>八:合点(がってん)でさあ。ここいらじゃ、おいらに敵(かな)う奴なんか1人だっていやしませんからね。
>卯:だいぶ昔の話になるんですがね、それは見事(みごと)な腹踊りを見たことがあるんですよ。一度だけですがね。
>八:ご隠居様みたいなお大尽(だいじん)なら、そんなもんいつだって見られるじゃありませんか?
>卯:あれほど腹の皮が捩(よじ)れるものはありませんでしたよ。あんなことにならなければ、また見ることができたでしょうにね。返す返すも惜しい。
>八:あんなことってのは?
>卯:当時の大旦那が、私の兄なんですが、大笑いの挙句(あげく)に笑い死にしてしまったのです。
>八:あれ? なんだか、どっかで聞いたことがあるような話でやすね。おいらの父親(てておや)も、そんなことが元で死罪になっちまったんでさあ。

>卯:なんと。・・・もしや、お前さんの父親というのは、三平さんとは言いませんでしたか?
>八:へい。三平って名でした。なんでそんなことをご存知で?
>卯:因幡屋で働いてくだすってたんですよ。
>八:だって、うちの親父の旦那様は、雑煮(ぞうに)の餅を詰まらせたって言ってやしたぜ。
>卯:汁粉(しるこ)の餅ですよ。恥ずかしいので、雑煮ということにして貰ったんです。変わり者でしてね。酒を飲みながら汁粉を食べるのが好きでした。
>八:げえ。幾らおいらが酒好きだってたって、それだけはできそうもねえな。
>卯:大笑いしたとき、喉(のど)を湿らせようとしたんでしょうが、誤(あやま)って汁粉の椀(わん)を一息に飲み干してしまったのです。酔ってなくたって喉を詰まらせますよ。見方によっては、自害といっても良いところです。
>八:そうだったんですか。そりゃあ災難でやしたねえ。
>卯:災難だったのは三平さんの方です。奉公人であったばっかりに・・・。武家でもなんでもないのに殉死(じゅんし)させられたようなものです。お陰で、私は三平さんの腹踊りが見られなくなってしまいました。見たいのに見られない。これも辛(つら)いものですよ。好い夢を見るのですが、目覚めてみると何一つ覚えていない。丁度そんな感じなのです。
>八:そうですか。そりゃあお辛いでしょね。・・・良うがす。一世一代の踊りをご披露いたしやしょう。餓鬼の頃から親父の腹踊りはちゃんと見てましたから、こつは心得てやす。しっかり目に焼き付けてってくださいやし。
>卯:あの。・・・私らを恨んでやしませんか?
>八:そんなことありませんや。親父に給金をくだすってたお店(たな)を恨んだりしたら、それこそ罰(ばち)当たりってもんですよ。そんなことしたら、親父に怒られちまいます。
>卯:そういっていただけると私の心も慰(なぐさ)められます。

卯右衛門は、源五郎のところへ行き、踊りの見料(けんりょう)として、5両(約40万円)を押し付けていった。

祝言には、お花とその父・久兵衛も呼ばれていた。
お花は友人として、久兵衛は謡(うた)いの役として、である。

>源:なあ八、お花ちゃんのお父(とっ)つぁんの歌ってやつをようく聞いとくんだぞ。
>八:どうしてですかい?
>源:相当なもんらしいんだ。お前ぇの芸の足(た)しにもなるだろうよ。
>八:親方、おいらは大工ですぜ。芸の足しなんかなくたって構(かま)やしませんって。
>源:でもまあ、お花ちゃんの父親でもあることだしな。ちっとは話をしてみるのも良いんじゃねえのか?
>八:そ、そいつはそうでやすね。芸の足しは要(い)らなくても、そっちの足しになるんだったら、なんでもしやすぜ。
>源:今日は祝いの日だから、ちょっとくらいなら酒を過ごしても構わねえぞ。
>八:ほんとですかい? やったあ。
>源:言っとくがな、踊りの前までは控えとけよ。
>八:勿論でやすとも。因幡屋のご隠居様に恥ずかしいもんは見せられませんからね。
>源:そうだな。ちょっとばかしお捻(ひね)りも置いてってくだすったからな。
>八:ほんとでやすか? そんじゃあ、踊りが済んだら、それを元手にじゃんじゃん飲んじまおうっと。
>源:羽目を外すんじゃねえぞ。
>八:分かってますって。お花ちゃんのお父つぁんが一緒じゃ、飲んだくれたところなんか見せられませんもんね。

祝言は、滞(とどこお)りなく行なわれ、友助とお十三は目出度く夫婦(めおと)になった。
八兵衛は久兵衛の歌に聞き惚れ、久兵衛は八兵衛の腹踊りに驚嘆していた。
因幡屋卯右衛門は、大笑いしながら、感激の涙を流していた。

>八:お花ちゃん、お父つぁんを借りても良いかい? 一緒に飲みたくって仕方がねえんだ。おいら、あんな巧い歌を聞いたの初めてだよ。
>花:誉(ほ)めて呉れて有難う御座います。でも、八兵衛さん。うちのお父つぁんは飲み方がだらしなくって。
>八:なあに。酒飲みなんてのは、ちっとくらいだらしない方が良いの。なあ熊?
>熊:おいらに聞くのか?
>八:いや、止(や)めとこ。堅物(かたぶつ)の熊になんか聞いたおいらが馬鹿だった。
>熊:なあ、お花ちゃん。おいらがお目付け役をやってやるから、ちょっくら飲みに引っ張り出しても良いだろう?
>花:ちゃんと見張っといてくださいね。
>八:そうと決まれば早速(さっそく)行こうっと。・・・お花ちゃんのお父つぁーん。いや、歌の名人。飲み直しと行きやしょうや。
>熊:・・・あいつには振り回されっ放(ぱな)しだな。まあ、退屈することはねえがよ。
>花:大丈夫かしら、お父つぁん・・・
>熊:必ず無事に送り届けるから、まあ心配しねえで待っててやって呉れ。
>花:宜しくお願いします。

久兵衛は喜んで飲み屋まで付いてきて、座るなり上機嫌で杯を重ねていた。
浮かれた八兵衛は、「高そうな肴(さかな)を片っ端から持って来て呉んな」と、高らかに言い放った。

>久:お十三ちゃんは幸せそうだったなあ。うちのも早く片付いて呉れないもんかねえ。
>熊:お十三ちゃんの2つ下だって言うじゃないですか。まだまだですよ。
>八:それに、器量も良いし、腕も立つときてる。言うことなしじゃありませんか。
>久:そいつがいけねえってんだ。娘っこがなんだとかいう武道みたいなものをやったってなんの得にもならねえ。
>熊:そんなこともないでしょう。身体(からだ)が丈夫そうだし。結局のところ、丈夫で長持ちってのが一番のことでやすからね。なあ、五六蔵?
>五六:あっしんとこは、お頭(つむ)こそ足りねえが、病気一つしねえってのが取り柄(とりえ)みたいなもんでして。やっぱり、そういうのって、大事なことですぜ。それに、お花ちゃんは気が優しいから、強いのを鼻に掛けねえとこも良い。
>久:誉め過ぎだぜ。
>八:そんなことはねえですよ。おいらたちの間でも評判は良いですぜ。
>久:そうかい? 踊りの名手から誉められたら、悪い気はしねえな。ささ、ちびちびなんかやってねえでぐいっと行っと呉れ。ここは俺の奢(おご)りだ。
>八:そうは行かねえですよ。うちのもんが5人も来てるのに父つぁんに出させる訳にゃいきませんぜ。腹踊りのご祝儀(しゅうぎ)も幾らか出ましたから、ここはおいらが持ちやしょう。

>三:それはそうと、そのご祝儀には幾ら入ってたんですか?
>八:そんなの見てるかってんだ。あのご隠居様だったらちょっとくらい多めに呉れてるんじゃねえのかな?
>熊:高々素人(しろうと)の腹踊りに、いかほどの値打ちがあるってのかね。
>八:なんだと? この八兵衛さんの腹踊りがちんけだと?
>熊:そうは言ってねえだろう。
>八:どうれ、見てみようじゃねえか。・・・と、ありゃ?
>三:どうしたんですか、八兄い?
>八:小石が入っていやがる。・・・何々? 「全部飲んじまうといけねえから祝儀は預かっとく」だと? なんだこりゃ?
>熊:良かったじゃねえか。親方はお前ぇのやることならなんでもお見通しだ。
>八:ちょちょちょっと待てよ。ここの勘定はどうするんだ? お前ぇ、余計に持ってきてるのか?
>熊:おいらが持ってる道理がねえだろう?
>久:まあ、そう慌てなさんなって。だから俺が払ってやろうってんじゃねえか。こういうときは年上に花を持たせるもんだって。・・・ええと、あれ? こっちも石ころだぞ。 「お花さんに渡しておきます」だ? なんだこりゃ?
>三:こりゃあ、姐(あね)さんの字ですぜ。どういう企(たくら)みでしょうか?
>八:そんなの分からねえがよ。1つだけ言えることってのは、ここの飲み代(しろ)が払えねえってことだ。・・・どうする?船橋 風俗
>熊:どうするも何もねえや。親方を呼びにいくしかねえじゃねえか。・・・三吉、済まねえ。
>三:あ、あの。おいらこの辺の土地鑑(とちかん)がねえんで、一体どこをどう行けば良いのか・・・
>八:それじゃあ、四郎・・・。ありゃ、こいつ寝ちまってるじゃねえか。五六蔵は?
>五六:あっしなら大丈夫です。そんじゃ、ちょっくら行ってきやすんで、飲みながら待っててお呉んなさい。

「飲みながら」と言われても、胴巻きが空(から)同然では、どんなに上等なつまみでも喉も通らない。
自然と会話も途切れがちになり、酔いも段々醒(さ)めてきてしまった。
やがて、小半時(こはんとき=30分)ほどした頃、五六蔵に連れられて源五郎が現われた。

>八:親方あ、こりゃあないですよ。食い逃げになるところだったじゃねえですか。
>源:はっは、済まねえ。・・・久兵衛さん。これは、俺が仕組んだことなんですよ。
>久:どうしてこんなことを?
>源:お花ちゃんがね、お父つぁんの散財が心配で、おちおち嫁にも行けねえって言うもんでね。
>久:お花が船橋 風俗そんなことを・・・
>源:恥を掻かせるつもりはなかったんですが、このくらいのことをしねえと、久兵衛さん、改(あらた)めやしねえでしょう?
>久:それほど思い詰めていましたか。・・・いやあ、良い親とは言えやせんねえ。
>源:一切(いっさい)駄目だって言ってるんじゃねえんです。身に付いちまった癖と一緒で、直るもんじゃねえ。4回のところを2回にして呉れりゃ良いってことですんで。
>久:そうですか。考えてみりゃ、お花の支度金(したくきん)も何も用意してやれてねえんですもんね。
>源:今日のところのご祝儀はお花ちゃんのために回して貰うってことにして、八の祝儀でもう少し飲んでって呉れやしませんかい?
>久:良いのですか?
>源:その方が八も嬉しいでしょう。なあ、八?

>八:勿論ですとも。・・・でも親方、正直なとこ、ご隠居様はどれほど包んでくだすったんで?
>源:まったく、下世話(げせわ)な話をしやがるな、お前ぇも。・・・まあ良い。久兵衛さんに1両、お前ぇに1両、そして、死んじまったお前ぇのお父つぁんの供養に3両だ。
>久:い、1両船橋 風俗も? そんな大金、貰えませんや。
>源:良いじゃあねえですか。これまでの罪滅ぼしのつもりでお花ちゃんに何か買ってやってください。
>久:そ、そうですね。
>八:そんじゃあ親方、おいらの手元には4両の大金が転がり込むってことですね? うっひょう。しこたま飲めやすね。
>源:お前ぇも、嫁を貰う準備金かなんかに取っておけ。貯(たくわ)えもねえってことじゃ、誰も嫁になんか来ちゃ呉れねえぞ。
>八:へーい。
(第27章の完・つづく)---≪HOME≫




Posted by ふなひじ at 17:06│Comments(0)
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